2010年7月4日
ドイツ 1967-1-25 〜 ジプシースウィング スティール弦ギター フラットピッキング
ヨーロッパのジプシースウィングギタリストと言えば、ついフランスやベルギー方面を思い浮かべるが、ドイツにもロマの血筋を持った民族は存在している(シンティと呼ぶ)。その中でピカいちの逸材として注目されつつあるギタリストが、Wawau Adler だ。ドイツ南部のカールスルーエに生まれ、叔父や祖父が楽団でハープを弾いていたという音楽一家に育った彼は、9歳から Django のレコードを教本がわりに独学でギターを弾き始め、13歳にしてコンサート舞台に立ったという。さらには Charlie Parker らを始めとするモダンジャズにも傾倒し、音楽性を磨いていく。'91年には、ジャズロックとジプシースウィングの融合を図った初アルバムをリリースしているが、彼の名が広く知られ始めるのは Django 没後50年としてヨーロッパ各地で催しが開かれた '03年以降である。この動きに呼応したかはわからないが、Adler も '06年に自身のルーツへと回帰する2ndアルバム「Back to the Roots」を製作し、同時にクインテットを率いて彼の並外れた力量をアピールしている。2010年は折しも Django 生誕100周年。Wawau Adler の名がますます轟き、日本のリスナーにも姿を見せてくれるようになるといいなぁ。
好評だった「Back To The Roots」の続編として'07年にリリース。リズムギターとベースとによるトリオに、曲によりバイオリンやアコーディオンを加えた編成で、ジプシースウィングをベースに「Yardbird Suite」といったビバップナンバーや「酒とバラの日々」「黒いオルフェ」らのスタンダードという硬軟取り混ぜた選曲で、Wawau Adler の柔軟な音楽性や巧みなアレンジが味わえる。個人的に気に入ったのはその「Yardbird Suite」。Bird と呼ばれたビバップの始祖による躍動感溢れる名曲を、ごく自然にジプシースウィングに引き寄せて生み出すスウィングには、心より先に体が反応してしまう。「For Holzmano」は唯一の Adler のペンによる自作ナンバーで、スリリングなギターテクニックをじゅうぶんに堪能できる完成度の高い演奏だ。アルバムを締めくくる Django の「Manoir Des Mes Reves」はミュゼットの香りを漂わせる甘い優美さが素晴らしい。
アルバムタイトルからは戦前のジプシースウィングに回帰したようなゴリゴリのジプシーテイストを連想してしまうが、その実、このアルバムが提示しているのは Wawau Adler が様々な音楽のエッセンスを煮詰めて自家薬籠中とした、これまで無かったサウンドだ。「これが21世紀のジプシースウィングです」と、Django に胸をはって言えると思うのだが、どうだろう?
下にあるアマゾンのアイコンをクリックすると、この CD を購入できます。