2004年4月13日
USA 1940-7-30 〜 1986-2-28 ニューエイジ スティール弦ギター フィンガーピッキング
'60年代から'70年代にかけて、一種異様な精神世界と東洋趣味な音楽性で孤高のポジションを築き、現代でも伝説として語られているアコースティックギタリストがいる。彼の本名は Daniel Robinson、日本の俳人である松尾芭蕉の名を借り、Robbie Basho と名乗った。
学生時代に$200で手に入れた12弦ギターにのめり込み、クラシックからブルーグラスまで演奏するうちに即興演奏に魅入られる。時期を同じくして日本文化に興味を持ち、絵画や作詩を始めている。ギタリストとしてのキャリアは、'60年代はじめに John Fahey と出会った頃から花を咲かせることになる。彼から手ほどきを受けたフォークやブルースの奏法を自分のものとしながら、その頃やはり影響を受けたシタールの大家 Ravi Shakar を始めとする東洋音楽のフレイバーをギターに取り入れて、独特な即興演奏の世界を作り上げていく。Takoma レーベルで多くの作品を残した後、若干不遇の時期を経て William Ackerman が主催する WindhamHill レーベルの元で活動を開始したさなかに亡くなっているようだ。
Ackerman も最も影響を受けたギタリストとして彼を挙げているが、アコースティックギターでの表現がブルーグラスやフラメンコといった伝統音楽のくびきから自由になることが難しかったあの時代、強烈なオリジナリティを放っていた Basho に影響されずにいられるアーティストは少なかっただろう。現代の耳で聴くと少々イタい感じがするのは、我々がヒッピーカルチャーのダークサイドを客観的に見ることを知っているからだとも言える。けれど、アコギストが溢れかえっているような現在でも、これだけとんがってハミ出ることを潔しとするアーティストがそう多くないことを振り返ると、何とも言えない畏敬の念のようなモノを禁じ得ないのである。
Takoma 時代の作品の数々をソースとしたベスト盤。現在、彼のアルバムは殆ど廃盤状態だが、ジャケ解説で、この時代の Basho の音楽が忘れ去られてきたことは罪であると書かれていて、私もそんな気持ちでようやく手に入れた伝説のギタリストのディスクを眺めた。5分以上の長尺ナンバーが11曲入りで収録時間78分、強烈である。マスターに起因するものだろうけど、音質がちょっと酷いのは残念。
John Fahey へのリスペクトが高まっている昨今、その半分の関心でも Basho に向いてくれないものかと思ったりする訳だが... 思えば子供時代に見た、ちょっと前衛を気取ったようなマイナーな映画やテレビドラマなんかでは、「Oriental Love Song」(6曲目)や「Salangadou」(8曲目)みたいなBGMがよく流れていたような気がする。最近、ドリフの古くさいコントとか糠味噌臭い歌謡曲など、当時のカルチャーが年月のストーンウォッシュに磨かれて続々とリサイクルされており、当事者の私でも結構新鮮に感じたりするんだけど、Robbie Basho のこの音楽だけはしっかりと、たいして楽しいことも無かった30年前の記憶を確実にほじくり返してくれる。うーん、やっぱり強烈すぎる(笑)。
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