2003年12月1日
日本 1958 〜 フラメンコ ガットギター フィンガーピッキング
愛知県出身のフラメンコギタリスト。13歳からクラシックギターを弾き始め、大学時代にフラメンコに傾倒、飯ヶ谷守康と加部洋にギターを師事したとのこと。フラメンコには遠く離れた極東の島の住人を惹き付けて止まない魔性でもあるのか、バイレ(踊り)・カンテ(唄)、そしてトーケ即ちギター演奏を志す日本人は多い。そして、のめり込むにしたがって、言葉も習慣も考え方も違う彼方の異国の表現と自らのギャップを意識せずにいられなくなるのではないだろうか。日本人ギタリスト古池正宏が放つ音は、フラメンコの叙情性をぐいと手元に引き寄せ、日本人独自の旋律を乗せて歌い上げるもので、潔いと言って良いほどのスタンスの取りようだ。パートタイム・ミュージシャンとしての活動を、現在は休止中とのことだが、指先まで愛情と心配りが行き届いたような氏の演奏にはプロの派手なプレイでは得られないものがあるだけに、またステージに上がってもらえる日を待ちたいものだ。
'89年に自主制作された初のアルバム。ケーナやサンポーニャといった、フォルクローレで使われる楽器とのアンサンブルが多く含まれ、彼の穏やかなギター演奏と良くマッチしている。セビリアを訪れた時の路地の印象が元になったというタイトル曲「マカレーナの小径」は、バッハの無伴奏チェロ1番の前奏曲を連想させる明朗な出だしに導かれて、何か懐かしい日本唱歌のようなメロディがトレモロで優しく奏でられる。彼がこの小径を歩いた時もこんなふうに柔らかい陽光が燦々と差していたのだろうか。ちなみに、この曲は快活でダイナミックな Alegrias の形式を取ってはいるが、こんなしっとりとした Alegrias も古池氏ならではだろう。「熱くて激しい」フラメンコのイメージを期待して聴き始めると肩すかしをくらうかもしれないが、良質のギター音楽であることは保証する。