2008年8月17日
台湾 ニューエイジ ガットギター スティール弦ギター フィンガーピッキング
台湾のポップスシーンを代表するギタリスト。作・編曲や作詞、プロデューサーとして等、その才能は多彩で、映画製作への関与も多い。私見を交えて言わせてもらえば、アジアのポピュラーミュージックにはある種の暑苦しさがあるが、董運昌の作品はおしなべて軽やかで涼しげで、アメリカ西海岸あたりのニューエイジ音楽ふうのテイストだ。欧米風ポップスが興隆を極めるいっぽうで、なかなかインストゥルメンタル音楽が根付かない印象のあるアジア諸国だが、董運昌の生み出すギターミュージックは間違いなく一級品で、風格すら漂っている。中国語(北京語)で「吉他」と書くギターだが、アジア方面に食指をのばすならこのギタリストは「安心・安全」だ。
'02年、ヒーリングミュージック方面を得意にするレーベル「風潮音楽」からのギターソロアルバム。董運昌はもともとオールマイティなギタリストだけれど、ここではレーベルカラーに合わせてだろう、穏やかでオーガニックな曲調に統一してある。また、曲によってはバイオリンやチェロ、アコーディオン、ピアノ等の多彩な楽器を交えてのアンサンブルもあり、アレンジャーとしての能力も思う存分発揮している。シンセサイザー類をいっさい入れずに「頑固にアコースティック」なのも良い。
トップナンバーの「左岸印象」はスティール弦ギターの爪弾きから始まる愛らしいワルツ。ギターだけで十分に成立する楽曲だが、次第にアコーディオンやバイオリンが加わっていきながら様々に表情を変えて行くあたり、朝焼けから日没までの空模様を写し取ったようで優れて映像的である。続く「紅色小酒館」はガットギターのフラメンコ風パッセージで始まるが、哀調をたたえつつエキゾティシズムに埋没していない。そして「月台上的旅人」は混じりっけなしのギターソロだが、本当にこの人、上手い。一見かんたんそうな爪弾きの中に実に丁寧に表情づけられたメロディライン。日本人好みの演奏だし、中川イサトが好きなギターファンなら気に入るんでないかなぁ。この他にもお茶目なカリプソ風の「迷路」やジャジーな「旅棧的最後一天」等、実に多彩な作風だ。いやー、ぜひ一度来日してもらいたいものだ。