2004年10月24日
USA 1930-12-4 〜 ジャズ/フュージョン ガットギター スティール弦ギター
Jim Hall がジャズギターの代名詞と言ってもさしつかえない存在として想起されるのは、ジャズのレコードとしては異例の大ヒットになった「アランフェス協奏曲」のせいだけではない。あのまろやかで包み込むようなギタートーンのイメージとは相反して、彼の本質が常に先鋭的で変化を続けていこうとする、ジャズそのものだからである。
Jim Hall は、1930年にニューヨーク州の音楽好き一家の中に生まれているが、特にギターを弾く叔父の影響が大きかったという。13歳の時にはすでに地元のグループでプロ活動を行うまでになっており、その頃 Charlie Christian のレコードを聴いてジャズに傾倒して行く。当初はクラシックの作曲家を目指し、クリーブランド音楽院で理論を学んでいたが、途中からジャズギタリストへの転向を決意。LAに移りアルバイトをしながらクラシックギターを学んでいたが、そんな時に Chico Hamilton のバンドに参加する機会を与えられ、デビューを果たす。その後の多彩なキャリアについては割愛せざるを得ないが、Jimmy Jeffrey Trio や Sonny Rollins Band への参加、また Ella Fitzgerald の伴奏者として同行した南米ツアーは、彼の大きな転機となったようだ。'80年代以降、ジャズにとっては冬の時代が続く中、そんな市場の状況など意に介すどころか彼の創作は常に前進を絶やすことは無かった。そして現在でもピークの状態を維持し続けている。驚くべきことだ。
'96年、TELARC レーベル移籍後の三作目となる、管弦楽とのオリジナルナンバーのコラボレーション。これは Jim Hall の長いキャリアを通じても異色の取り組みだと思うが、元々は作編曲家を志していた彼の嗜好が長い年月を経て結実したのだろうか。全編を通じて凛とした緊張感と色彩的な美しさがあり、まるで映画のサントラのようでもある。楽曲の性格上、ジャズ的なインプロヴィゼイションを楽しむアルバムではないが、それでもここに推したのは言うまでもなく、アコギによる後半の三曲が素晴らしいから。長い弦の導入部の後に展開される内省的なギターソロがややスペイン風味な「Passacaglia」。スティールドラムとパーカッションだけを従えたカリプソ「Sazanami」。ふくよかなブラスアンサンブルがクレズマー風でユーモラスながらもどこか物悲しい「Circus Dance」。ガットギターの響きはわりとそっけないんだけど、それがドライというか突き放したような都会的な煌めきをアルバムにもたらしている。
下にあるアマゾンのアイコンをクリックすると、この CD を購入できます。