2004年11月23日
日本 1975 〜 サンバ/ショーロ ボサノバ ガットギター フィンガーピッキング
ブラジル音楽が、アマゾンの森に住む珍しい昆虫を採取するようにレア物発掘のフィールドのようになってしまったのは、いつの頃からだろうか。クラブシーンでDJ達が、己の先鋭さを競うようにサンプリング素材を南米音楽に求め始めた影響だろうが、昔は一部の愛好家が独占していたこの音楽ジャンルは、スノビッシュな快楽主義者が殺到する猥雑で近未来都市的なイメージに変貌しつつある。
さて、そんな流れとは全く別の場所から突然現れたのが日本人の「ボイス・パフォーマー」、Saigenji である。彼は広島生まれであるが、少年時代に香港に4年、沖縄に7年滞在しており、ニッポンのせわしない音楽シーンに煩わされることが無かったのが、現在の唯我独尊的な個性形成に一役買ったと考えるのは穿ちすぎだろうか。多くのミュージシャンが、音楽知識という沢山の「引き出し」を駆使してブラジル音楽に接近する中で、彼はごく自然に自分の中にある天然資源(子供のころから南米フォルクローレに親しみ、Milton Nascimento に衝撃をうけたとのこと)だけをもとに、魅力的な音楽を生み出し続けているように見える。何者かが乗り移ったようなパフォーマンスのその様は、ブラジルの Joan Bosco を連想させるが、Saigenji はまだ若くそれだけに、これからどのような姿に変貌していくのか予想がつかないのは楽しい。
'03年発表のセカンドアルバム。ファーストアルバム「SAIGENJI」をレコード屋店頭で聴いたときは、あまりの個性の強さにやや退いてしまった私だったが、このアルバムは性急さが薄れたぶん、リスナーが余裕を持って楽曲の美しさを反芻できるような雰囲気がある。唄とギターは相変わらずの一体感を誇るが、それでもスパニッシュな物憂げさで始まるトラディショナルな「Choro」や、カーニバルを写実した「Festa」、この上なく美しい旋律の「La Puerta」などのインストナンバー(後者2曲はスキャット入り)を収録してくれたのは嬉しい。彼がギター演奏についてどんな理想を持っているのかは良く分からないのだが、やや直線的ながら切れ味鋭いリズムのチョップは、やはり Baden Powell の影響大、か(サンバギタリストを目指す人間が影響されない訳ないか ^^;)。私はまだ観ていないが、とにかくライブがイイらしい。アルバムに飽き足らなくなったら、是非その目と耳で荒ぶる音楽神の憑依を経験してみては?
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