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    アコギスト宣言!!

    天満 俊秀 (てんま としひで)

    2008年11月9日

    日本 ケルティック/アイリッシュ スティール弦ギター フィンガーピッキング

    プロフィール

    天満俊秀は、日本では比較的珍しい、ケルティックスタイルを専門とするアコースティックギタリスト。このジャンルでは、多種のハープギターを駆使するバーチュオーゾ、安田守彦がいるが、音楽的なケルト指向の強さという意味では天満氏こそ邦人ケルティック・ギタリストの第一人者と言っていいかもしれない。
    さて、この「ケルティック」という言葉、実は結構厄介な表現なのだ。言葉どおりに受け止めるなら、紀元前にアジアからヨーロッパに移住した民族である所謂「ケルト人」の民族・言語・文化まわりを指す場合に用いる表現、ということになる。いっぽうギター音楽の世界では、アイルランドの伝統音楽を演奏することがそのまま「ケルティック・ギター」と表現されることも多い。アイルランドやイングランド等のブリテン諸島には紀元前からケルト人が定住していたが、その後イングランドの方がローマ帝国やアングロサクソンに浸蝕されていった一方で、アイルランドは比較的その影響を受けなかったこともあり、有史以前の文化・伝統が色濃く残っているためだろう。ところが近年では、ブリテン諸島にいた「ケルト人」はヨーロッパ大陸のケルト人との血縁関係が疑問視されているからややこしい。アイルランドのケルト文化は本当に「ケルト」なのかという問題は、「大陸のケルト・島のケルト」といって専門家の間でも大きなテーマになっている程だ。そんな訳で、「ケルティックギター」と称するギター音楽には、雰囲気偏重のニューエイジ音楽(これはこれで新しい表現なので否定するつもりはない)も多く含まれており、ストーンヘンジの頃に想いを馳せて耳を傾けるなら、トンデモな勘違いということになってしまう。
    翻って天満俊秀のギターだが、彼は常々ルーツ音楽に強く惹かれる旨の発言をしており、実際に演奏する楽曲もアイルランドの歴史に洗われてきたトラッドが主体であり、とても足が地についている印象を受ける。従って、「アイリッシュ・ギター」としたほうが彼の音楽も誠実さも、よく表せるのかも知れない。バイオリンの平野有希とのユニット、Roots での活動も、ユニット名が示すように彼には微塵のブレもない。

    アルバムレビュー

    South Wind

    ファースト・ソロの力作「T. Temma 1st」は自主制作だったが、'07年のこのセカンドアルバムは打田十紀夫のプロデュースのもと、TAB レーベルからのリリースだ。8歳の頃からクラシックギターを学び、アイリッシュ・ミュージックへの探求やユニット Roots で培ってきた伴奏力が、実に香しく1枚の銀盤に結晶している。
    アイリッシュトラッドが持つメロディは不思議に日本人の郷愁を誘い、ついついギタリストもしっとりとした唄心に重心が行ってしまいがちだが、もう一つの大きな魅力であるダンサブルなリズム感も、天満俊秀は決して置き去りにしない。快速ジグ「Orange Rogue」で見せる安定感はさすが。アイリッシュギターの定番である、18世紀のアイリッシュハーパー  O'Carolan のナンバー「Carolan's Welcome」や「Planxty Irwin」なども嬉しいなあ。自身のペンによる3曲のオリジナル作も、名立たる歴史的名曲の中に置いて何の違和感も無い出来映えだが、ラストナンバーの「Be Not So Clear」にはモダンな響きがあり、現代のギタリストとしての主張が見え隠れする。日本人として誇ることのできる、信頼に足りて余りある名ギタリストである。

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