2008年8月2日
USA 1940-12-21 〜 1993-12-4 ジャズ/フュージョン ロック スティール弦ギター フラットピッキング
人が人を理解しようとする時、だいたいは「どんなものが好きで嫌いなんだろうか」「この人にこんな事を言ったら怒るだろうか、喜ぶだろうか」あたりから始まるのではないだろうか。それは音楽に接する時も似たようなもので、楽曲の裏側にあるミュージシャンの指向や守備範囲、理想を探って行くことがコミュニケーションの筋道となる。ところが、このやりかたが(少なくとも私にとって)通用しないミュージシャンがいる。Frank Zappa である。
「難解」という一言で表現されがちな人だが、一方では音楽的には極めてまっとうで誠実であるとの評価もある。そう、難解なのは音楽ではなく、彼の人格の方なのだ。いや、人格という言葉さえ適当なのだろうか? もしロボットとかアンドロイドが NASA かどっかで密かに完成していて、ギター持たせたら勝手にマスターして高度に弾きこなすようになり、しまいには作曲までするようになった、なんてことがあったとしたら、それって Zappa そのままじゃん。別に貶めようとしてる訳じゃない。創造のモチベーションとして、当たり前に語られる人間臭いエモーションが Zappa には希薄で、その代わりに構造や論理という無機質っぽいものが源泉となっているように感じてしまうからだ。
そんな訳で、'93年に彼が癌で亡くなったときは、やはり人間だったんだなぁ、と不謹慎な感慨があったものだ。新作が届けられることはもう無いが、残された作品はじゅうぶんに膨大だ。自分にとっての暗黒大陸、Frank Zappa を探る旅は緒についたところで、先は長そうである。
Zappa にはおおざっぱ(笑)に、ロック・フュージョン・現代音楽の三つの側面があるが、このアルバムは'69年「Hot Rats」の流れを汲んだジャズ・ロック路線の一枚で、'79年の作。ちなみに同年には黒人ファンクをおちょくった(Zappa 流の敬愛表現?)名盤「Sheik Yerbouti」もリリースしており、その影に隠れがちかもしれない。女性ボーカルを立てたナンバーも3曲あるが(CD 化の際に加えられたものでアナログ盤ではカットされていたとか)、やはりメインはトップナンバー「Filthy Habits」やラストの長尺なクライマックス「The Ocean Is The Ultimate Solution」でガンガン弾き倒される Zappa のギターだろう。そのラストナンバーの前に、アウトテイクみたいな雰囲気でボソッと差し込まれたのが、James Youman とのアコギ二重奏「Sleep Dirt」だ。
そういえば、この2年後には箱入り3枚組(もちろんアナログ盤当時)のギターアルバム「Shut Up 'N Play Yer Guitar」がリリースされる訳だが、これだけのボリュームだから1曲くらいはアコギナンバーもあるだろう、と思って大枚はたいて買ったら、延々とラウドなエレクトリックが続き、やっと最後にアコースティックな響きが聴こえてきたと思ったらブズーキだった、という泣き笑いの思い出がある(俺だけじゃないよね?)。てな訳で、それ以来 Zappa のアコギインストを探すのをキッパリ放棄していたところに、この「Sleep Dirt」にアコギインスト有りの情報が。なにやらノドの刺が抜けたような気分である。
下にあるアマゾンのアイコンをクリックすると、この CD を購入できます。