2021年12月17日
最近知ったアダム・レヴィン(Adam Levin)という米国の若手(たぶん)クラシックギタリストが、経歴や活動で興味深い点が多かったので紹介してみたい。
アダム・レヴィンはシカゴ出身で、ギターはアマチュア奏者の父から教わったとか。その他にもう一人、少年期の彼にギターを手ほどきした人物がいる。佐藤忍という日本人ギター講師である。ルーツ音楽系のアコースティックギターが好きでフライングフィッシュレコード等のレーベルに親しんでいたら、この名前には聞き覚えがあるかもしれない。佐藤忍は神戸出身の日本人だけど1979年に渡米してミュージシャンを目指し、1988年から1994年までに3枚のギターアルバムをリリースしている。デビューアルバム「Red Dragonfly」にはガーシュウィンやスコット・ジョップリンのお馴染みのナンバーに加え、「さくらさくら」「あかとんぼ」等の日本古謡が収められている。
その後、佐藤はノースイースタンイリノイ大学で音楽史とギターの修士号を取得し、現在では家族とともにシカゴでギター講師をして暮らしており、その生徒の一人がアダム・レヴィンだったという訳だ。彼のレッスンはセゴヴィアのテキストを用いた基本を重視したものだったらしく、レヴィンは16歳までにはバッハのシャコンヌやヴィラ・ロボスのエチュード全てを弾きこなすことが出来たとか。これによりレヴィンの将来が決まった…のかは分からないが、順調にギタリストとしての道を歩み続けて現在のプロキャリアに至っている。
レヴィンのパフォーマンスでユニークなのは、ソロ演奏に加えて多くのユニットでのコラボレーション。マンドリン奏者のヤコブ・ルーヴェン (Jacob Reuven)とのデュオ・マンター(Duo Mantar)、バイオリニストのウィリアム・クヌース(William Knuth)とのデュオ・ソニドス(Duo Sonidos)、スコット・ボルグ(Scott Borg)とマシュー・ロード(Matthew Rohde)とから成るギタートリオ、グレート・ネックス(Greate Necks)とまぁ、彩りが豊かなことハンパない。特にグレート・ネックスでは、シベリウスの「フィンランディア」を含む、非ギター作品のインポートを多く収録した野心的なアルバムで異彩を放っている。
ここ数十年、アルバムのリリースも無くなった佐藤忍の名前を思わぬ所で見かけて、ほほうとなると同時に何やらこみ上げるものがあった。彼らの素晴らしい演奏を聴きつつ、それらが世代を超えて受け継がれたものだと思うと、また別の味わいと感慨があるものだなぁ、と。