2004年9月5日
マダガスカル 1963-9 〜 エスニック スティール弦ギター
マダガスカルには、カブースという四弦のローカル・ギターがある。Jean Emilien は、祖父や父の影響で幼い頃から小型のマンドリンのような弦楽器で音楽に親しみ、17歳からはこのカブースを弾き始めたという。そしてある日、彼の演奏に感激したタクシー運転手が、Emilien を首都アンタナナリボまで連れて行き録音を行った。それはすぐにラジオで放送されて Emilien をスターダムに押し上げたとか。'89年にはパリでファーストアルバムを完成させ、好評を得ている。
アフリカンミュージックは、ロックやジャズの世界では競演や音楽的交配が盛んに行われ、ポピュラーなものになりつつあるが、アコースティック・ギター・ミュージックに関して言えばまだまだアフリカは暗黒大陸のままなのである。それでもマダガスカルは、D'Gary のように優れたアーティストが世界に紹介された例もあり、西洋音楽をベースにしたギター音楽とは全く違った、全く新次元のサウンドが我々の耳に届き始めた。Jean Emilien は前述のとおりカブースのプレイヤーだが、現在では通常の6弦ギターに、カブースチューニングの4弦に2本の弦を追加するかたちで、独自のチューニングを施して演奏しているようだ。またハーモニカをホルダーでつり下げて、フォークシンガーのように歌の合間に吹き鳴らすあたりも何やら新鮮である。
'97年のセカンドアルバム。時にはリズムセクションやコーラスを交えた弾き語りスタイルだが、「Afindrafindrao」「Kaika」「Tulear」「Tsy Enao」のインストナンバーも含む。ギタースタイルは8分の6拍子を基本にした、マダガスカル音楽のビートをフラットピックで刻むものだが、自在に変化するシンコペーションや摩訶不思議なコードワークはアフリカ音楽に馴染みが無いと、かなり面食らうというか鑑賞のポイントを見失うだろう。それでもしかし、「Tsy Enao」の様な生命力の漲りには圧倒される。リズムギターという概念があるのであれば、Jean Emilien のギターはビート以外の不純物を一切含まない、正にリズムギターの極北である。ロックを聴いて「このリフがたまんねー」などとヌカすことが赤面しそうな、根元的魅力を持った一枚。