2009年12月23日
USA 1979 〜 ニューエイジ スティール弦ギター フィンガーピッキング タッピング 変則チューニング
あらゆるギターテクニックを身につけ、両の手を駆使して一人でもバンド顔負けの表現力を持つ。そんな Hedges チルドレンとでも呼ぶべき新世代ギタリストを見かけるのは、20世紀も遥かな過去となった現在では格別珍しいことでもなくなってきている。それでもこのカンザス出身の若いギタリスト、Andy McKee は特別な存在だ。彼の演奏を世界の数千万人が「目撃」しているからだ。
13歳の時に父から与えられたガットギターにあまりのめり込めず、ロックやエレクトリックギターに興味を移す等の寄り道があったようだが、Andy 少年は16歳ごろから Michael Hedges や Preston Reed らの影響を受けて本格的にアコギ・ソロの探求に乗り出す。そして、二十歳過ぎには早々にアルバムデビューを飾る。こういった道のりも昨今のギタリストでは珍しくないだろう。だが、3枚目のアルバムをリリースした際にCDレーベルがプロモーションとして YouTube に公開した「Drifting」のパフォーマンス映像が彼の人生を変えた。憂いを含みながらも小気味良く、両手のタップとボディヒットで終始奏でられるこのナンバーは、左手で弦を押さえて右手でかき鳴らすのがギターだと思い込んでいた世界中の人の目を釘付けにした。この四半世紀の間に変貌を遂げたアコースティックギターの現在を、Andy McKee は3分間で世界に知らしめてしまった。そしてもう一つ示してくれたのが、ストリート演奏さえ叶わない片田舎に埋もれていても、世界と勝負できるってことだ。この先どんな若い(いや別に年寄りでもいいんだが)未知のギタリストが現れるのか、身震いするよね。
'05年、Andy がリスペクトする Don Ross の属するレーベル CANdYRAT から放ったサードアルバム。YouTube で大ブレイクした「Drifting」「Rylynn」「Into The Ocean」などを含む、彼の出世作だ。収録された12曲すべてはオリジナルナンバーで、Ross 顔負けの巨躯でビジュアルも凄い(?) Andy だが、そのいずれもが意外に穏やかで優しい。キラーチューンとなるトップナンバーの「Art Of Motion」ですら、どこか弾けきっていないというか、内にこもった思いを思慮深く紡ぎ出しているふうである。Stephen Bennett から譲り受けたというハープギターで奏でる「Into The Ocean」などは、まさに「春の海」という感じで極上のリラクゼーション。知り合いなのだろうか、早逝した少女に捧げたという「Rylynn」も、直情的な悲しみを抑えるような慎ましさを感じる。以上から、こう断言していいだろう。ネットのビデオの印象とはうらはらに、Andy McKee の才はテクニカルなフィジカリティにではなく、鬱陶しい程に内面の発露に拘るアティテュードにあると。
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