2008年12月28日
USA 1895-4-9 〜 1976-1-30 ブルーズ スティール弦ギター フィンガーピッキング
今は使われているのかどうか知らないが、「ソングスター(Songster)」という言葉がある。主に古い時代のブルーズ・シーンで活躍した、芸風広く流行り唄やダンスチューンまで唄いこなすような人気歌手に与えられた称号だ。代表的なのがラグタイムギターの名手としても有名な Blind Blake、フォーク・アイコン Mississippi John Hurt、人間ジュークボックスと言われた Leadbelly、そしてこのテキサスの Mance Lipscomb などだ。
農夫を営む一方で、週末のバーやパーティで乞われるままに演奏するパートタイム・ミュージシャンだった Lipscomb だが、若い日々には Blind Lemon Jefferson や Lightnin' Hopkins と交流を持つなど色々あったらしい。60年代のフォークリバイバルブームの中、音楽研究家の Mack McCormick と Chris Strachwitz に見いだされて初めてのレコーディングおよびアルバム制作を果たしている。ガツガツとベースを叩きながら唸るように唄うイメージ通りのテキサスブルーズから、軽やかにストライドするフィンガーピッキングに乗せて唄うラグタイムと、そのレパートリーは広く、親しみやすいものばかりだ。ブルーズの源流を辿る時、いきなりディープな Robert Johnson や Son House に飛びつく前に中継地点として耳を傾けてみては?
'60年に録音されたファースト・アルバム(その時 Mance Lipscomb は65歳)に、'64年に録音された10曲余を加えたもの。実に枯れた味わいのラグ「Sugar Babe」に始まり、ギターのレスポンスがカッコいいダウナーな「Going Down Slow」、Son House 風のスライドギターがイカす「Jack O'Diamonds」と、長年にわたって唄い込まれてきたであろう、宝の山がザクザクだ。ギターも派手なプレイこそないものの、唄とのコンビネーションにおいて恐ろしく見事な腕前だ。まったく、ギターで弾き語るってのはこういうことなんだよっ、と誰にという訳ではないが言わずにおれなくなる。そして、1曲だけのアコギインスト「Rag In G」は、かつでダンスホールで皆のステップを誘ったダンス・チューンだったのだろうか。我々アコギファンへの何よりもの贈り物だ。
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